当院では膝関節周囲の外傷治療や変形性膝関節症に対する人工膝関節置換術などの手術が多いものの、前十字靭帯損傷(ACL損傷)や半月板損傷などのスポーツ外傷に対する手術も増えています。また、保存療法や関節鏡手術などの小侵襲手術にも力を入れています。
加齢に伴う膝関節痛には様々な要因が関与しています。関節軟骨の変性が主因と考えられていますが、関節水腫(膝の腫れ)を繰り返す方などでは、滑膜の炎症が主因になっていることがあります。これは圧痛の部位などから判定が可能ですが、慎重に症例を選べば滑膜切除術などの侵襲の少ない手術で改善することがあります。また、骨粗鬆症が進行している方の急激な膝痛には骨折が生じていることがあります。レントゲン検査では判然としない骨折が、MRI検査で明らかになることがあります(図1)。
【図1】
足底板などの装具療法や骨粗鬆症の治療で症状が改善することも期待できます。このようなケースであっても、人工膝関節置換術(TKA)を行えば疼痛は改善しますが、当院では成績の改善の為、TKAが選択となる方には骨密度検査を行い、骨脆弱性が懸念される場合には、テリパラチドによる骨質改善を行った上で手術を実施しています(図2)
【図2】
手術に際しては、関節周囲に多剤カクテル注射を行い、術後創痛の軽減に努めています。また、術後感染対策としては、創閉鎖に特殊な糸を使用するなど、細心の注意を払っています。
年齢が若く、TKAが適応になり難い方や、運動への意欲の高い方には脛骨ないし大腿骨の骨切り術も良い適応になります。内反膝(O脚)に対する脛骨高位骨切り術(HTO)術が選択されることが多いですが(図3)、術前術後には全下肢レントゲン撮影を行い、骨切り角は周到に計画されます(図4)。
【図3】
【図4】
MRI検査を行えば無症候性半月板断裂は高頻度に見つかりますので、半月板損傷の事実のみで手術が実施されることはありません。しかし、疼痛やロッキング(ひっかかり)などの有害な症状が認められる場合には、鏡視下半月板縫合術や半月板切除術などが行われます。
近年、内側半月板後根断裂(MMPRT)という病態が注目されています。内側半月板の後根が断裂すると、内側半月板が内側に脱臼して軟骨の変性が急速に進行します。数ヶ月から半年程度の短い期間に高度な変形性関節症に進行する危険性が指摘されています。早期に発見して断裂部を修復することが重要になりますが、難易度の高い手術です。MMPRTの特徴は、popping painと呼ばれる急激な膝痛で、内側関節裂隙後方に圧痛が見られます。MMPRTを疑ってMRI検査を行うと、giraffe neck sign、ghost signなどの特徴的な所見が観察されることから、診断が確定します。
比較的よく遭遇するスポーツ外傷であり、様々な術式が試みられていた再建術も、半腱様腱腱を用いた再建術が定着しています。外傷の性質上、復帰を急ぐアスリートからは早期手術が要望されることも多いものの、拙速な手術は治療成績の低下を招く関節の線維化(Arthrofibrosis)の原因になることも明らかになっていますので、急性期の炎症が消退し、関節可動域が回復した時期を見極めて手術を実施する方針で行っています。機能回復を目指す手術ですので、豊富な知識と経験が要求されます。
嘱託医
顧問医 関東労災病院スポーツ整形外科部長
顧問医 東大教授