私たちは、地域の患者さんおひとりおひとりと、そのご家族の価値観や希望を大切にし、最良の治療が何かを共に考え、治療方針を決めております。
当科の手術件数は他ハイボリューム専門施設と比べると決して多くはありません。
しかし、他施設で手術が困難とされた病状の方に対しても、全身管理を含め最大限の治療方法を検討し、実行致します。
肺腫瘍として分類される疾患に「肺癌」、「転移性肺癌」、「良性肺腫瘍」があります。肺そのものから発生したものを原発性肺癌といい、通常、肺癌というとこの原発性肺癌を指します。転移性肺癌は、別の臓器で発生した癌が血液の流れに乗って肺へ転移した癌のことを指します。良性腫瘍は、肺に発生する腫瘍のうち進行が遅く、他の臓器へ転移することのない腫瘍を指します。肺腫瘍は、どの疾患においても初期には自覚症状が乏しく、健康診断や他の治療の際に発見されることが多い疾患です。原発性肺癌の場合、病気が進行するにつれて治療が難しくなりますが、初期の段階であれば外科的切除により根治することが可能です。
気胸は、何かしらの原因により肺を包んでいる胸膜に穴が開き、胸腔内へ空気が漏れ出てしまう疾患です。胸腔内へ漏れ出た空気は逃げ場がなく、肺を圧排し潰してしまうのでうまく呼吸することが出来なくなります。外的要因がないのに発生する気胸を「自然気胸」といいますが、10歳代から30歳代のやせ型の体型の男性に多く発生する「原発性自然気胸」と、肺気腫や間質性肺炎などの肺疾患のある人に発生する「続発性気胸」があります。
治療としては、胸腔内へ溜まった空気を対外へ排出するために肋間に細い管を挿入(ドレナージ)しますが、それでも空気漏れが止まらない時や再発する場合には、手術で肺の穴を修復することが必要になります。
縦隔とは左右の肺に挟まれた空間を指し、心臓、大血管(大動脈、大静脈)、気管支、食道、胸腺などの臓器が存在する部位を言います。縦隔腫瘍はこれらの臓器に発生した腫瘍の総称で、一般的には他の腫瘍と比較すると発生率の少ない疾患です。発生年齢は小児から高齢者まで幅広く、腫瘍の種類も悪性から良性まで様々です。レントゲン、CT、MRIの検査で概ね診断が可能ですが、確定診断には治療を兼ねた外科的切除が必要となることが多い疾患です。
交通事故や転落などで胸部に強い衝撃を受けると、胸の中にある大事な臓器を守る肋骨が折れることがあります。肋骨骨折は痛みだけでなく、多数の肋骨骨折を起こすと胸の形を保てなくなり、重症の場合には呼吸困難になります。さらに骨折した肋骨が肺や横隔膜を傷つけると空気漏れを起こして肺がしぼんだり(外傷性気胸)、胸の中に血が溜まったりして(血胸)、呼吸が苦しくなります。自然に軽快することも多いですが、保存的に治癒が見込めない場合には外科的処置が必要となります。
その他、感染性肺疾患に対する肺切除術や膿胸に対する掻爬術、開窓術なども行っています。
呼吸器外科の手術の殆どは、患者さんへの負担をより軽減した胸腔鏡手術で行われています。
これは、細いビデオカメラ(胸腔鏡)を肋骨と肋骨の間から胸腔内に挿入し、画面に映し出された映像を見ながら手術を行うものです。
従来の開胸手術に比べ、傷口が小さく痛みが少ないのが特徴です。
当院では直接操作を行う小切開を加えた「ハイブリッド」胸腔鏡手術を積極的に行っています。(右図)
高度な手術を安全に行うためには入念な準備が欠かせません。
放射線技師による鮮明な3D-CT画像をもとに術前シミュレーションを行っています。
また手術中は外科医の操作を大きなモニターに映し出しながら手術を行っています。麻酔科医や看護師のスタッフと手術中の操作を共有することで、手術の安全性を担保しています。
手術は、癌や病巣を取りきる(根治)ことや、短時間で終わらせることだけが目的ではありません。当院では臓器や傷の縫合には生物分解性縫合糸を使用し、各々の臓器(肺や気管支)の性質に合わせて一針一針ていねいに縫い合わせます。機械を使用した吻合と比べると時間と手間こそ要しますが、可能な限り体内に異物を残さず、術後もより自然な状態に戻れるよう「身体にやさしい手術」を心掛けています。
火曜日午前 髙橋
金曜日午前 渥實